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映像四郎の百人斬り

映像四郎の百人斬り

「無邪気な笑い」

 「地下鉄A子ちゃん」は、無邪気に、笑っていた。



 「あたしが、死んだら、あたしのこと、すぐに、忘れるでしょ」


 久しぶりの「地下鉄A子ちゃん」は、「新宿鮫」になっていた。

 脊椎に「爆弾」を抱えていたのだ。

 脊髄の腫瘍が、自然に潰れるまで、手術ができない。

 いつ潰れるかはわからない。

 そして、面倒なことに、かかりつけの専門病院には、

 直で救急車は、いってくれないのだ。

 救急病院で、スキャンして、潰れてるのがはっきりしてから、

 ようやく運んでくれるそうだ。

 だから、念のため、救急車に何ていうかを携帯にメモった。

 「爆弾」が、破裂する前に、死にたい、といってる。


 「お母さんが死んだときも、すごく悲しかったけど、

  今も、悲しいけど、

  あのときほど、悲しくないもん。

  お父さん、死んだばっかだけど、

  いろんな手続きで、悲しさ、忘れちゃった」


 悲しいことや、重いことを、何の混じりっけのない笑顔でかたる。

 どつきたくなるが、どつきはしない。

 「地下鉄A子ちゃん」の笑顔に、「色気」はないが、

 リタリンの影響なのか、

 赤ちゃんが、初めて笑ったときのような、無垢さがある。


 「あたしが、死んだら、あたしのこと、すぐに、忘れるでしょ」


 飲みは、笑いで、続いていく。

 何故だか、「幼馴染」のような友達感覚なのだ。

 
 「うん、忘れる」


 積極的に忘れてやる。

 なぜなら、昔、女のダチが、知らぬ間に、死んでいたとき、

 「地下鉄A子ちゃん」の「わけわかんないトランス」に出会い、

 「死の悲しさ」があっという間に、ぶっ飛んだからだ。

 そのダチが、死んだとき、会社では、「安いキャバクラ」通いが、

 ブームになっており、現場がおわると、機材車つかって、

 みんなで、吉祥寺に向かった。

 へらへら、みんなで、笑いつつ、

 セクハラトークをする(私だけ?)のだが

 そのころ、ふと、そのダチが元気かなと思ったが、

 ふつう元気に決まってるので、すぐに忘れた。

 だけど、あとで、知ったら、

 その頃、もうこの世にはいなかった。

 死んだら、消えちゃうんだなぁ、と感じた。

 というか、消えなきゃ困ると思った。

 別に、死ぬとき、魂は、私のところに、来なかったと思うけど、

 何かの弾みで、キャバクラ覗かれて、

 セクハラトーク見られてたりしたら、

 何か、さびしーなーと。

 というより、怖いのだ。

 結局、人は死んでも、地球の自転と公転は、続いてゆく。

 だから、私は、積極的に魂を信じない。

 
 「あたし生きてても、生き霊でるんだって、友達いってた。

  だから、あたし、死んでもいるからね」


 無邪気に笑いながら、「地下鉄A子ちゃん」が、意表をついて、

 車に飛びこもうとするので、すぐに取り押さえた。

 最近は、慣れた。

 「地下鉄A子ちゃん」の人差し指の爪が少し割れてた。

 死んだら、消えてくれ。

 心から、そう想う。


 「あたしには、今とここしかないのよー」


 へらへら、笑っている。

 だけど、たまに、ぴーぴー泣き出す。

 明るい顔に、リタリンで、コーティングされた心の奥は、

 きっと、ドツボなんだろう。

 半身不随。

 SEX不能。

 出産不能。

 できることなら、イギリス人とSEXしながら、

 腫瘍を砕かれて、死んでいきたいのだそうだ。

 カッコいいこと、いってんじゃねえよ。


 「あたしが、死んだら、あたしのこと、すぐに、忘れるでしょ」


 あまりにも、明るく無邪気に、笑っているので、唐突に、

 この顔が、白黒の遺影になった映像が、浮かんで、

 目の前の笑顔に「切なさ」が降り注いだ。

 私の右目から、大粒の涙が、5、6滴こぼれたけど、

 瞼を押さえたら、5,6秒で止まった。

 よかった。

 昔から、あまり、涙が出ない体質で。

 1年もたったら、きっと、かなり、忘れてると思う。

 悲しい感情も、かなり、薄れてると思う。

 だけど、お前のキャラは、忘れない。

 お前のキャラという情報は忘れない。

 だいたい、ただの飲み友達を、地下鉄に引きずりこもうとする
 
 キャラなんて、初めてだ。

 頭の中の映像に刻まれた、てめえのキャラは残してやる。

 「地下鉄A子ちゃん」

 お前は、死んでも、情報として、生きつづけるんだ。

 50年後に、ノバウサギに対抗して、東京地下鉄(株)の

 大ヒット商品、「A子ちゃん人形」として、生かし続けてやる。

 情報加工を繰り返し、お前の情報を、半永久的に流通させてやる。

 だから、お前は、死んでも、死なない。

 「化けてでない、明るい貞子」のように。

 だから、死ぬときは、安心して、死んでくれ。

 そういうと、「地下鉄A子ちゃん」は、

 初めて、真顔で、言った。


 「お願いね」


 そして、遺言状には、私の名前を書いてくれて、

 CDを一枚くれることになった。

 これで、何かあったとき、最悪、わかる。




 しかし、「地下鉄A子ちゃん」は、基本的に、不死身なので、

 今日も、どこかで、恋人28号をさがして、徘徊しているのだ。


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